March 19, 2024

TI-FRISフェローインタビュー:多様な人が自分らしく生きることができる社会を目指して(福島大学 高橋有紀 准教授)

TI-FRISフェローとして活躍する福島大学の高橋有紀さんは、犯罪者の立ち直りを支える社会のあり方について研究しています。多様な人が自分らしく生きることができる社会政策を、刑事法や刑事政策の研究を軸に学問分野の垣根を超えて構想することが、高橋さんの目標です。

 

高橋さんにご自身の活動や研究、社会との関わり方、そして今後の挑戦について伺いました。

 
 
 

——— 自己紹介をお願いいたします。

 

福島大学の高橋有紀と申します。私は、特に犯罪を犯した人の立ち直りを支えていくような地域のあり方、社会のあり方について、刑事法や刑事政策の観点から研究しています。

 

———どのような活動をされているのでしょうか?

 

犯罪者が立ち直りやすい地域をどう作るか、また、依存症の方の回復や精神障害の方の地域生活をどのように支援するかに関心を持って研究を進めています。今年の2月にはTI-FRISのセミナー開催支援を活用し、大学院生の頃から関心を持っていた社会福祉法人「浦河べてるの家」の理事長の向谷地生良先生をお招きして、公開セミナーを開催しました。「浦河べてるの家」では精神障害の当事者が地域で生活しながら商売をするという活動を行っています。セミナーでは、障害者が地域で商売をするということ自体についても多くの人に知ってもらいたいと思い、彼らが販売している昆布を資料として来場者に配布しました。

 

2023年2月に開催した「浦河べてるの家」向谷地生良 理事長公開セミナーには約50名が来場した。

 

———社会との連携が特に大事な活動ですね。

 

私自身、判決や事件に関するコメントの取材、地域の再犯防止推進計画や犯罪被害者の支援に関する委員会への参加など、多くの依頼を受けています。これらは、犯罪者や犯罪被害者の問題が社会から誤解されないようにするための重要な活動で、研究者として得た知見を活かして関わっていくことが社会的責任だと思っています。そのため、基本的には依頼を断らないようにしています。

 

この日は、東京電力福島第一原発事故をめぐる裁判の判決について、地元紙から取材を受けていた。

 

———TI-FRIS/FRISシンポジウムに参加されていかがでしたか?

 

とても刺激的で楽しかったです。私自身、「文系」である一橋大学の出身なので「理系」の問題について深く考える機会は少なかったのですが、シンポジウムでの研究発表や意見交換などを通じて視野が広がりました。また、私の専門分野である法律学の学会では、原稿を全て読み上げる発表が一般的なので、TI-FRISのイベントでポスターを作って発表すること自体が新鮮で、良い経験だなと思いました。

 

TI-FRIS/FRISシンポジウムのポスターセッションでの一コマ。

 

———TI-FRISで他の研究者との交流を通じて、何か新たな気づきはありましたか?

 

TI-FRISフェローとして活動して初めて気づいたのですが、異分野の研究者と交流することで、自分の研究を俯瞰的に見ることができるようになりました。自分がなぜ犯罪者の立ち直りに関心を持つようになったのか、何を目指していくべきなのかを再考する機会にもなり、すごく大きな経験だったなと思います。自分の研究を俯瞰する視点は、他分野の人と意見を交換するからこそ身につくものなのかなと感じています。

 

他の学問との協働については、特に、生物学や医学の知見は、犯罪者の嗜好や行動の特性の理解や犯罪被害者の支援に役立つのではと考えています。その一方で、技術で全てを解決することが正しいのだろうか?と感じたりもします。そのため、他分野の研究に、人間や社会を見る新たな視点を提供できればと思っています。

 

FRIS/TI-FRISリトリート2023では世話人を務め、若手研究者の交流をリードした。

 

———今後、挑戦してみたいことは何ですか?

 

TI-FRISは研究の社会実装を重視しています。これまで社会実装というと大企業が取り入れるような発明や技術開発が主流でしたが、私は小さなコミュニティの中で、そのコミュニティの課題を、さまざまな生きづらさを抱えている人たちと一緒に解決するような活動をしていきたいと思っています。それは一見小さく見えるかもしれませんが、いわゆる「今だけ、金だけ、自分だけ」と言われるような社会のあり方を問い直す意味では、大きな一歩になると考えています。その一歩を踏み出すような社会実装の取り組みにチャレンジしたいですね。

 
 

(2023年2月 令和4年度TI-FRIS/FRISシンポジウムにて)

 
 

高橋有紀 准教授(福島大学人文社会学群行政政策学類)